傘をもたない蟻たちは

短編集である「傘をもたない蟻たちは」は、人間の欲望を着色せず醜いまま表現されている数少ない作品です。

最初の「染色」は両腕にカラースプレーを吹き付けて手に馴染ませるという不思議な習慣のある女子大生がとにかく魅力的です。主人公の青年は彼女がいながら、その不思議な女子大生に惹かれて体の関係を持ってしまうようなどうしようもない男です。正直、最後まで読み終わっても主人公は好きになれません。でもそれがこの物語のいいところです。他の小説のように綺麗で「いい人」な主人公ではなく、その辺にいる度胸はないが、理想は高く、自分の描く理想に能力が追いついていない。そんな主人公は現実に本当にいるかのように思えます。

この本の4作品目である「イガヌの雨」は本当に気持ち悪いです。人間の卑しい部分をここまで直接的に表現できるのかと感動しました。結局「イガヌ」と呼ばれる謎の生物はなんだったのかわからないのもまたいいところです。イガヌの正体はわからないけども、主人公の少女もきっとイガヌを食べてしまうんだろうな…と思わせるあの最後は後味の悪さがピカイチです。でもきっとあの世界に自分がいたら、自分も食べてしまうんだろうなとなんとも言えないモヤモヤ感に包まれます。

最後の「にべもなく、よるべもなく」はそんな後味の悪さを消してくれました。と、いってもハッピーエンドとは程遠いものですが。同性愛者に覚えてしまう生理的な嫌悪感を「カビの生えたジャケットの匂い」にたとえるのは秀逸だと思います。その生理的な嫌悪感を大切な友人が同性愛者だったために悩む純くんを見ているととても切なくなります。でも最後は友人と和解ができて、本当によかったとほっとします。

生きていると必ず直面する様々な「性」の問題が凝縮されていて、読んでいると自分の汚い部分や卑しい部分が赤裸々になるような感じがしました。

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