黄金の島 日本も含む大きなアジア圏

久しぶりに侵食忘れて読んだ小説でした。日本の暴力団員が日本を追われる事となり、タイからベトナムへと流れていき、最後にはベトナムの若者たちと木造船で日本へ帰国しようとする・・・というお話なのですが、非常に興味深かったのは、ベトナムという国についての記述でした。
この本の中で、”日本人ほどアジア人を見下している国民はいない”というセリフがあるのですが、確かにそうかもしれないな・・・と思いました。
それを私自身、最も身に染みて感じる理由は、私が今、イギリスにいるからというのもあるからかもしれません。
日本に住んでいて、日本人である限り、ヨーロッパにでも旅行に行かない限りは、あまり日本人はあからさまな差別を感じる事は無いと思います。
けれど、実際、白人が多く住む国、特にヨーロッパのようなプライドの高い白人、心の奥底でいつも白人至上主義があるような人種の国に行くと、差別されているとかなりはっきり分かります。(正直、白人至上主義の人の多くは私から見ると無教養な人が多いのですが・・・。)
日本人はアジア人を差別している人が多いと思いますが、ヨーロッパに来れば、日本人も他のアジア人と同じ括りなんですよ。
日本人だから、経済大国から来たからといっても、肌の色はそう変わりなく、多くの白人はアジア人ひっくるめて大差無いと思っていると思います。この本に描かれている、この暴力団員から見る日本という国、日本という国民性はとても興味深く客観的に語られており、一旦日本から出て、外から日本という国を客観的に見ないと分からないような感覚で語られている部分が多く、同じく日本から離れてヨーロッパにいる私にはその感覚がよく理解できました。差別は人類から多分、完全にこの世から無くなる事は無いな・・・と思う瞬間で、それはまあ、仕方無い事だなとも思う訳です。そんなに簡単に解決できる事ならば、こんなに長い間、人類の問題に横たわっていないと思うので。

普段、TVでぼんやりと沢山の難民がびっくりするような小さな木造の船で日本に漂着してくるというニュースを時々、何の感慨も思いもなく眺めていました。
完全に他人事でした。でも、この本を読んで、本当に色々考えさせられました。
先ずは日本に危険をおかしてでもやってこようとする、アジアの若者達の切羽詰まった思い。
殆ど自殺行為としか思えない行動であり、彼らの多くは学校もロクに通えない状況で育ち、日本がどこにあるか、どれほど遠いのかも分からない。
そんな状況で、小さなボロボロの木造船で、何人もの人がひしめきあって密航して、やってくる。
しかも、私はこの本を読むまでベトナムという国について、殆ど知識がありませんでした。
ベトナム戦争終結後から現在に至る状況。共産主義下のベトナムの国の実情。
アメリカ人に勝った、けど、状況は前より悪くなり、何の為に闘い、勝って何になったのか?というジレンマ、全く楽にならない生活と未来に希望が全く持てない絶望。
この物語の主人公は最初は自殺行為とも言える密航に反対しますが、最後には協力します。
航海以前にベトナムの海域から出るだけでも大変なのにです。
何かにつけて、主人公の日本人は「TVやビデオや電化製品に囲まれて生きている日本人には分からない。」と言われます。
それはそうでしょう。でも、主人公はかつてマグロ遠洋漁業で南アメリカの、さらに貧しい国に寄港した事があり、もっと悲惨の状況も知っていて、それよりはベトナムの方がマシだと思うのですが、そんな事を言っても当事者でなければ到底分からない、その国々の事情の中で生きる若者たちに何をどう言ったところで、他人事なのです。航海の厳しさを説いても同じです。
当事者でしか分からないというのはどの世の中でも、どんな状況でも一緒なのです。
ただの偽善なのか・・と主人公も悩みますが、偽善も、正義も所詮は紙一重、あるいは裏と表。考え方、捉え方、人によっては、どうとでも捉えられてしまうので、考えも答えは出ない。
この小説は、色んな意味での人間の奥底にあるタブーな感情について語られ、読者に考えされていると感じました。

日本に来れば幸せなのか?これは主人公が物語の中、ひたすら考える事です。
日本に来たって、密航者の難民にはロクな仕事は与えられないし、また、それえ以前に門前払いをくわされえる可能性の方が高い。
それより、何より、日本まで辿りつけるのは奇跡に近い。
実際、日本に決死の思いで辿り着いた難民が日本でどんな生活を送っているのは私は全く分かりませんが、この主人公が思っているのと大差ない状況だと思います。
この物語では、日本にもうすぐ到着というところで、日本人の主人公は殺されてしまい、ベトナムの若者たちはヤクザに囚われ、劣悪な状況でパスポートを取り上げられ、苦役を強いられますが、隙を見て、計画して、反撃に出て、自由になります。(なれない人もいましたが。)
その後の事は描かれていませんが、例え自由になっても、その先にどんな幸せが待っているのか・・・?は疑問に残ります。この小説の作者が言いたかった事は何か?と最後まで読んで、読後にも色々考えました。
そこまでしても、ベトナムからでる方が幸せだったのだろうか?と。いや、日本に行きたいと思うだけで、そう思ったまま無念のまま死んでいくより、後悔しても実行に移して、その上で後悔する事があっても、その方が良いと思うであろう、アジア圏から密航してくる若者の心の中を上手く表現し、描きたかったのかなと・・・。
本当に、ありとあらゆる人間の感情、しかも普段考えたくない、直視するのを回避したいような色んな事を、とことん考えさせられる小説です。自分が経済大国出身の人間である事、その事に心の奥底で優越感を持っている事、発展途上のアジアの国の国民をどこかで見下している事に関する罪悪感、でも同時に、白人社会では差別の対象になっている事を理解している事で、少し罪悪感が薄まったように思っている事、など・・・。

お金があれば幸せなのか?

最近、よく考える事です。そして、日本という経済大国に生まれた自分は、驕りがあるのか?今回、アジアの他の国に関して読んだ時の感情は、この主人公が考え、悩んだように、偽善なのか、否かなど。この小説の中で日本人の価値観のほぼすべてはお金に囚われているのだと書かれていますが、なるほど、否定する事は出来ないでしょう。
ただ、これは日本だけじゃなく、先進国の殆どではこの感覚は根付いているのだと思います。私は今の歳になって、ようやく、お金があれば幸せという訳じゃない・・・とぼんやりと見えてきたような気がします。
それは、お金があれば幸せだと見せつけている人が周囲にあまりにも多くてうんざりしているからというのもありますが、それが悟りなのか、諦めなのか、嫉妬なのかは分かりません。
お金の多さ、少なさが、本当に幸せのすべてなのだろうかと?先進国に住んでいてそう考えるのと、後進国でそう考えるのとは全く違うという事も、今回この本を読んで深く理解したつもりではあります。
でも、先進国と言えど、貧富の差はある。この本を読んで、新たに色んな事を自分に問いかけています。
そのうちブラジルみたいに見かけで白人か黒人か、ネイティブアメリカンの肌色なのか分からないようになり、色んな国で色んな人種が入り乱れるようになって人種差別がいつかやわらぐときがきても、貧富の差というのは共産主義であろうと、絶対に存在していくと思います。
貧富の差、これは決して消える事の無い、永遠の課題だと思います。

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