歴史に忠実な痛快小説「天平グレート・ジャーニー 平群広成の数奇な冒険」

上野誠著の時代小説「天平グレート・ジャーニー 平群広成の数奇な冒険」は、やや今ひとつなタイトル名とは全然違い、空前絶後、のめり込むこと必至の冒険サバイバル物語になっています。

 舞台は奈良時代、遣唐使に派遣される朝廷の役人たちの苦心惨憺たる様子を活写した物語です。主人公は当時の朝廷ではまあ中間管理職ともいえる、中級役人の平群広成。エリートである遣唐使の一員に選ばれ、いろいろと多難の末に唐の玄宗皇帝に拝謁します。

 そこまではよかったものの、帰路は文字通り波瀾万丈、命がけの冒険となります。海上が荒れ仲間とはぐれて漂流の末、何とベトナムまで流され、同僚が次々死ぬ中、辛くも虐殺や病死を逃れます。

 そこからまた長安へ戻り、何とか日本へ帰ろうと手を尽くす広成。紆余曲折の末、なぜか現在の中国東北部にある他国まで渡り、ようやく出発から7年後に命からがら帰国を果たします。天皇への土産に、現在の正倉院に実存する伝説の香木を携えていた、というのも不思議な巡り合わせです。

 ともかく息つく間もない面白い展開の小説です。そのままドラマ化しても結構いけるのではないか、とさえ思ったりします。

 著者は本業は上代史が専門の歴史学の大学教授。ですからストーリーはほぼ史実に基づいており、ものすごくリアリティーがあります。その上著者は、すぐれた脚本なども手がける多才な人物のため、筆遣いもうまく、「なるほど、遣唐使っていうのは、実はこんな感じで命がけの冒険をしていたのだな」と実感をもって納得できます。教科書と違って、歴史の躍動感が感じられる「本当の」物語だといえましょう。

cegla-design